公開日 2026年1月8日
2025年11月21日受付
提言
本提言は、現在計画が進められている中野市美術館整備に関するものであり、当該整備方針については基本的に賛意を有するものです。そのうえで、公費投入の効果を最大化する観点から、改善すべき点を指摘し、国内の事例に基づいた具体的な方策を取りまとめました。
既存計画について、当該内容で稟議が承認されたことに一定の驚きを禁じ得ず、現状の不足点を明確化したうえで、公共施設整備に求められる現代的な成功要件について、僭越ながら提言させていただくものです。
1 現行計画の課題
(1)根拠の不十分さ:現計画では市民満足度調査の数値(文化芸術分野の満足・やや満足率19%)が施設建設の必要性の根拠として引用されているが、満足度調査は主観的評価であり、施設不足や事業不足などの原因分析がない。したがって建設の直接的エビデンスにはなり得ない。
(2)ターゲット設定がない:「市民全体」や「子どもから大人まで」といった抽象的な表現に留まり、誰にどんな価値を提供する施設なのかが定義されていない。マーケティング戦略がなく、利用者像に基づく空間・サービス設計が欠落している。
(3)運営設計が建設と切り離されている:計画では当面直営とし、将来は指定管理者を検討するとされるが、運営設計が建設段階から組み込まれていない。運営方針やサービス内容が未定のまま箱物を整備すれば、後から運営者が参入しづらくなり、追加改修費用が発生する可能性が高い。
(4)PPP/PFIへの理解不足:行政が単独で公共性を担う前提になっており、官民連携による知恵や資金を活用する視点が欠落している。これでは民間のノウハウが入りにくく、魅力ある運営が期待できない。
(5)エリア価値向上の視点がない:図書館敷地への単独整備が想定されているが、美術館が街全体の価値をどう高めるか、周辺施設とどう連携するかといった都市経営的視点が示されていない。点の整備ではなく、面的な価値向上を意識すべきである。
2 国内の事例
・大阪中之島美術館のPFI
大阪市は2016年3月、施設整備は公共で行い運営にはPFI手法を導入する方針を決定。2019年6月にはPFI事業の実施方針を公表し、募集要項などを公表した。2020年4月、大阪中之島ミュージアム社と公共施設等運営権実施契約を締結し、2021年7月に運営権を設定した。
本美術館は「民間の知恵を最大限活用し、顧客目線を重視するミュージアム」を掲げ、大阪全体の都市魅力向上に寄与することを目指している。初期投資は公共が負担するが、運営にPFI法のコンセッション方式を日本の美術館で初めて導入し、民間事業者が経営に直接携わることで創意工夫を最大限発揮できる仕組みを採用した。コンセッション方式により、効果的な情報発信や話題性のあるイベント、魅力的なサービス施設誘致、官民連携によるエリアプロモーションなどが可能とされる。運営事業者には朝日ビルディングが選ばれ、同社が設立した特別目的会社が運営を担い、館長や学芸員は自治体から出向することで、公と民のノウハウを融合する体制となっている。
大阪中之島美術館の例は、施設整備段階からPFI導入方針を明示し、民間事業者と協働して運営設計を進めたことである。計画時から運営戦略を内包したことが、「単なる箱物」に終わらないためのポイントと言える。
・鳥取県立美術館のPFI導入
県立博物館の美術部門を独立させる構想のもと10年をかけて誕生した。開かれた意思決定を重ね、設計・建設・運営・維持管理を一括したPFI手法や公開プレゼンテーションによる事業者選定を採用している。
建築設計は、明るく開放的な空間を実現し、「OPENNESS!」というブランドワードが示すように、多様な価値観に開かれた場を目指している。
PFI手法とは民間の資金やノウハウを活用する手法であることもHPの中で説明されている。新設館ながらPFIを採用し、早期から民間事業者を巻き込んで公開プレゼンテーションを行うなど、透明性の高いプロセスで計画を進めた。
開かれた理念と民間ノウハウの活用が後発館の強みを活かす例となっている。
3 結論
成功する文化施設は単独の箱物ではなく、明確なビジョン、ターゲット戦略、運営計画を初期段階から備え、民間と協働して地域価値の向上を図る点である。
中野市美術館計画も、公設公営に固執せずPPP/PFI等を含む柔軟な運営モデルを検討し、施設単体ではなく周辺エリアを含めた都市経営戦略として再構築することが望ましい。
また、中野西・立志館高校とのデザイン会議による若年層意見の反映や、講談社等既存提携企業の参画を促し、より良い施設整備につなげていただきたい。
その将来像が実現することを期待し、施設の開館を心待ちにしております。
回答
ご提言いただきましたPPP/PFIの導入につきましては、公共施設の整備・運営において、有効な手段であることは認識しておりますが、今回の美術館建設では導入を予定しておりません。
なお、運営方法などにつきましては、提言をいただきました高校生や市民の皆様と対話するワークショップなどを検討しており、多くの方が集う魅力ある施設となるよう準備を進めて参りますので、ご理解ご協力をお願いします。
お問い合わせ
文化スポーツ振興課 文化振興係 電話(22)2111 内線394
