収蔵品紹介
銅石版画について 収蔵品
 
銅石版画について

 当館に展示してある作品は、赤川版画工房制作のエスタンプ(複製版画)を中心とした作品群です
 作家の思いや息づかいが感じられるその作品群は、オリジナルに触れる扉としての意味も持ちあわせています。美しい色彩や線のタッチなど、原作の油絵や日本画とはひと味違った楽しさがありますので、版画ならではの独自性にもご注目ください。


制作工房 赤川版画工房

 代表 赤川 勲(1940- )

1940 (昭15) 北海道瀬棚郡今金町に生まれる
1963 (昭38) 東京芸術大学美術学部絵画科油絵専攻 卒業
栃木県慈生会光星学園主事
その後、銅版画については駒井哲郎、石版画については脇田 和に師事する
1972 (昭47) ガストンプチ・アトリエ(東京)で絵画・版画・彫刻・建築デザインの制作助手をつとめる
1975 (昭50) 神奈川県川崎市に赤川版画工房を設立
国内外の著名作家の銅版・石版作品を数多く手がけるとともに、多くの人材を育てる
フランス・パリ郊外シャルトル市にアトリエ・アカガワを設立
愛知芸術大学・東京純心女子短大・東京芸術大学の講師をつとめる
1999 (平11) 網膜内出血を患い一時は失明状態に陥るが、手術で奇跡的に視力を取り戻す
2002 (平14) 「作家としての、人生の集大成を故郷で」と出身地の今金町に移住
2003 (平15) 今金町の豊田ふれあい交流施設内に赤川版画工房を開設
廃校になった豊田小学校校舎を利用して、制作活動を続けている


B.A.T.について

  ◆ B.A.T. = bon a tirer (仏)《読み:ボナ ティレ》の略語 ◆

 これは「最適の刷り」という意味で、最終的に「校了」となった刷り見本に記入される言葉です。
 原版が完成したのち、刷師によって仕上げられた完璧な最終的刷り見本に、その最終的な試刷りが自身の意図する作品に仕上がっていることを確認した作家が立ち会ってサインするものです。
 B.A.T.とはいった作品が、前もって決められた限定部数(エディション)を刷る際の基準となり、刷師は色・刷り具合などこれと同じくなるように刷り上げ、この刷り見本との差がはなはだしいものは破棄されます。
 B.A.T.の刷り見本は、記録として工房で管理・保存されます。

 当ミュージアムで展示しているB.A.T.と記入された作品は、赤川版画工房で製作された銅・石版画の最終的な刷り見本として、工房で保管されていたものです。


銅版画制作のプロセス

 一枚の版画が放つ不思議な魅力。見る人はそこに油絵や日本画にはない工芸的な美しさを見ているのかもしれません。
 実際一枚の版画ができあがるまでにはいくつもの工程を経ていかなければならないのです。銅版画の刷りは、版にインクを詰め、余分なインクを拭き取り、プレス機に通し、そして刷り上がったものを処理するといった一回の工程で一枚ずつの作品が完成していくのですが、単純な分だけなかなか奥が深いものです。
 通常製版は作者自身が行いますが、時により工房スタッフが手伝うこともあります。その際は逐一作者の指示を仰ぐようにします。作者のイメージを確実に版にするためです。

 ここで製版における基本的な四つの技法を紹介しましょう。

@ DRYPOINT −ドライポイント−
 銅版に直接ドライポイント・ニードルで傷を付けます。引いた線の両側には、バーと呼ばれるめくれができ、そこにインクが溜まり滲んだ効果が得られます。

A MEZZOTINT −メゾチント−
 ベルソーという道具で版表面にインクが詰まる傷を造り、その傷を削ることによって調子を作ります。

B ETCHING −エッチング−
 版面を腐食から保護するためにグランドとよばれる液を吹きます。乾いたところでニードルでその膜を軽くはがし腐食液につけます。グランドをはがしたところに酸が作用し溝として刻まれます。ドライポイントに比べて深くシャープな線が得られます。

C ACUATINT −アクワチント−
 版の上に松ヤニの粉を均一にまき、下から温めて溶かし、定着させます。これを腐食させると砂目状の効果が得られます。

 これらの工程を繰り返すことにより、より深い銅版画のマチエールが生まれるのです。金属を自分の意図する作品に近づけるというのは、容易なことではありません。

 さて先ほどの原版を刷ります。原版に銅版画用インクを詰めます。インクの硬さは原版にあわせて調節します。詰め終わったら寒冷紗のような目の粗い布で余分なインクを拭き取ります。仕上げは目の細かい人絹で慎重に拭きます。微妙な拭き取り加減はまさにプリンターの腕一つで決まります。
 銅版画の場合、版にできた溝に紙を食い込ませて刷るため、あらかじめ紙に適度な水分を与えて柔らかくしておきます。プレス機の上に原版をのせ、紙をふせ、クッションとしてのフェルトをかぶせながらゆっくりプレスを通してゆきます。プレスの圧力も大きく刷りに影響してくるので回したときの感触を大切にします。インクの拭き取り方、紙の湿り具合、プレス圧、すべてがベストの状態でなければよい刷りは得られません。
 刷り上がったものを作者に細かく点検してもらい作者の意図している版画作品にまでもっていきます。
 色刷りの場合は、原版にクロームメッキを施します。これはインクの変色防止と版面保護のためです。前もってすべての原版にそれぞれの色インクを詰めておき、一版ずつ順々に刷っていきます。紙がずれないよう一方をプレス機にはさんだまま、原版だけを差し替えてゆきます。このとき原版を置く位置を厳密にあわせる必要があります。また一度刷られたインクが次の版に多少転写されるので一枚刷るごとに版面を綺麗に洗って再びインクを詰め刷り進めてゆきます。
 銅版画の場合紙の耐久力などから版の数は5版ぐらいが限度だといえるでしょう。5版8色刷りの作品を1枚刷り上げるのに1時間近くを要します。
 刷り上がった作品は板に水張りしておくか、厚紙にはさんで乾燥させます。
 限定50部なら50回、100部なら100回、以上の工程を繰り返し、一つの版画作品ができあがります。




銅・石版画の
できるまで


赤川工房の場合
リトグラフ制作の
プロセス


 リトグラフには掘ったり腐食したりというような版に凹凸を作るような作業はありません。平らな版の上にインクの付く部分と付かない部分を化学変化によって作り出すのです。脂肪分を多く含んだリトグラフ専用のクレヨンで描いた部分にインクが付くようになります。
 描き上がった版はアラビアゴムを塗り一晩寝かせます。この版は製版工程を経て印刷に耐える版になります。
 次に色版をおこすための版下を作ります。版にインクを盛り紙に刷るときと同じように半透明のフィルムに刷りとります。これが版下になります。
 次にアルミニュームの板に先ほど作った版下フィルムをトレースします。インクの付きをよくするためにチンクターというタールの一種を塗ります。製版インクを盛り、ストーンパウダーをまき、エッチ液を作用させます。これはリン酸などを成分とした薬品でよけいなところにインクが付くことを防止します。版を乾かし、最後にアラビアゴムを塗って製版終了です。
 アラビアゴムは乾燥するとアルミ表面にきわめて薄い皮膜を形成します。この皮膜は水を保ちやすく、描画部分以外にインクが付くことを防ぎます。
 すべての色版ができたところで、これを刷りあわせます。30版以上に及ぶものは、数枚の試し刷りを刷り上げるのに5日程度の日数を要します。
 版画制作では作者が直接には版を作らず、工房側が本画を元にしてすべての版をおこすという方法がとられることもあります。これをエスタンプといいます。

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